霧香からミレイユに100の質問
「ミレイユに訊きたいことがあるの」 「何?」 突然声をかけられて、ミレイユは通りすがりに霧香が熱心に見つめていたモニターを覗き込む。 画面上のページにはこんなタイトルがついていた。
〜『金髪ナイスバディなねーちゃんに100の質問』に答えてみました〜
斜め34度に傾いてしまった頭を、こめかみに指先をあてて支えながら、勇気を振り絞ってあえてミレイユは訊き返した。 「…何かしら?」 「えっとね」 ずらっと箇条書きに並ぶ文字列を目で追う霧香。 「今から質問するから、答えてね」 (またこの子は何をしょうもない!)とは思ったものの、ミレイユは心やさしいので黙って付き合ってあげることにした。
「先ずはあなたのお名前、年齢、出身地は?」 「知ってるでしょ」 「あ、うん。」 でも、こっそり年齢を確かめてみたかったのはナイショだ。 もういい加減言い尽くされているネタだけど、人種が違うにしても育ち方の開きが……。
「自分を動物に例えると?」 「キリン?」 「どうして?!」 「なんとなく。一番に思いついたから。意味ないと駄目なの?」 「……いいの…」 霧香の頭の中で、今まで見たキリンの姿がぐるぐる浮かんでは消えた。 そういえば黄色かったっけ…などと意味なく納得してみたり。 「座右の銘は?」 「習うより慣れろ」
「自分の長所と短所を述べよ」 「長所は思いきりが良いこと。短所は…思いきりが良すぎること」 うんうんうんとしっかり頷いている霧香に、ちょっと気を悪くする。 そんなに納得されても。 「今までで一番恥ずかしかったこと」 「…そんなこと言えるわけないでしょ」 ふいとミレイユの視線が泳いだ先は窓だった。 「?」 何だろう、と霧香はミレイユに気づかれないようそっとそちらを探ってみたが、いつもと同じ鉢植えの花が置いてあるだけだった。
今は季節ではないので花は咲いていない。 よく、わからない。質問とは関係なかったのかも。と霧香は先に進めた。 「今までで一番困ったことは?」 「人間がひとり、うちに転がり込んできたこと」 「…ミレイユ……」
「今までで一番嬉しかったことは訊かないの?」 「…嬉しかったことは?」 黒い瞳を見開いて、きょとんと訊きかえす霧香に「わからないの」と頬をなでた。 今度は何となく、何となくわかった気がした霧香は急いで「わかった」と小さく答えて続ける。
よくわかりました、と ミレイユはその頬をしばらくなでなでしてあげた。
「無人島に何かひとつ持っていけるとしたら、何を持っていきますか?」 「あんたは?」 「え…スケッチブック」 「……せめてなんかもっと役に立つ物、持っていきなさいよ」 霧香は真剣な表情で暫し考え込んでいたが、顔を上げると「ミレイユに買ってもらった、ティーポット!」 と答えた。 ミレイユは「あんたに訊いたあたしが馬鹿だったわ」とおおげさにため息をつきながら言った。 「あたしは霧香」 「え?」 「あたしは、あんたを持っていくわ。無人島に行くならね」
ミレイユが真面目な顔でゆっくり言い聞かせると、霧香は一拍おいて、ぱあっと笑顔で顔を輝かせ「うん」と嬉しそうに頷いた。 おいおい持っていけるのは「物」ですよ。などいう外野の突っ込みは野暮なだけで、ミレイユの方も自信満々何の疑問もない言い切りっぷりであった。
この人なら一緒に飛行機に乗るとき、霧香のことを「手荷物です」などと断言して憚らないかも知れない。 確かに霧香はコンパクトですが。 それはさておき。
「それで?満足?」 「……うん」 いろいろ訊いてはみたものの、やはりいまいちよくわからなかった気がして霧香は少し気落ちしていた。 そもそも質問の内容が霧香の意図するところとずれていることはこの際置いといて。 「あたしがあんたに訊きたいことはひとつだけ」
「?」 「あたしに何か言うことは?」 モニターをあっちに向けて、ミレイユは霧香をそっと抱き寄せた。 そんな風に。逃げられない距離で綺麗な瞳で覗き込まれたら。 霧香に言えることなんてたったひとつしかない。 「ミレイユ…好き。大好き」
「そう」 ミレイユは柔らかく笑うと、霧香にキスした。 軽く、唇で唇をなぞるようにキスを繰り返す。 「もうひとつあった。……あんたの唇はどうしてこんなに柔らかいのかしら?」
「うん……それは……」 真剣な表情で考え始めた霧香を無視して、ミレイユは自分の方にその頭を引き寄せてまたそっとキスをした。 「…100の質問に答えるより。100回キスした方が、よっぽどあたしのことわかってもらえる気がするわ」 「うん…」 「試してみようか。」 額を寄せてミレイユが囁くと、霧香はぎゅっと目を閉じて小さく頷いた。 (それに) と優しいくちづけを楽しみながらミレイユは心の中で呟いた。 (100も質問に答えてられないしね)
ベッドで背中から抱きしめているとふと顔をあげて霧香が呟いた。 「……よく、わからなくなっちゃった」 「42回。…今ので43回目よ」 唇を触れ合うだけの軽いキスをする。 「数えてたんだ」 びっくりした霧香にちょっと笑う。 (そんな訳ないでしょう)
霧香がミレイユのことを知るには、まだまだ時間がかかりそうなのです。
END
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『ノワール好きに100の質問』を作った時に、思いついて。
具体的には無人島のくだりだけぽろっと出てきたのです。
しかし、それだけではいくらなんでも読めるものにならないので、転がし続けて増やしました。
それでもこんなちょびっとですが、まあちょろっと読んでいただければ幸いです。
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