| ミドリアゲハ |
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深呼吸に似た優雅な風が、開け放たれた部屋へと流れ込んでくる。 容赦なく照りつける南国の陽光も、屋根から張り出した庇(ひさし)の影から伺い見るなら、豊かな恵みをもたらす女神の慈悲だ。 ミレイユは、午後の怠惰な気温の中、寝台に横になって午睡を決め込んでいた。 天井から下がる巨大なファンが、室内へさらに涼しげな風を送っている。少しも淀むことなく新鮮な空気を生み出し続けるその動きは、室内のなにひとつをも脅かさなかった。 そよ風が触れる肌は、汗ばむ間もなく心地よく冷やされて、まるで暖かい空気に包み込まれているかのように全身が無防備にほどけてゆく。久しぶりの休暇を満喫する穏やかな時間は、今まで感じたことのない安堵をもたらしていた。 ふと、慣れた息遣いを間近に感じて、ミレイユはまどろみながら、そっとその名前を呼んだ。 ―――――霧香… 細い肢体を満たす少し高めの体温。幼い肌。絶えずゆらゆらと定まらぬかのように濡れた漆黒の瞳にミレイユを映して、堪えきれないあどけなさで名前を呼び返す。ミレイユが呼びさえすれば捉えられる、霧香というとりとめのない存在。 夢現の中に漂うその呟きが熔けて消えても、気配は去らなかった。 同じ部屋で過ごしていても、互いに干渉せずにくつろぐことのできる関係だが、眠っているミレイユを起こすべきか、起こさないようにするべきか迷っているのかもしれない。 ―――――? 訝しく寝返りをうとうと身じろいだうなじに、いきなり濡れた感触が走る。 「………っ、!」 微かな溜め息をまとうそれは、なまめかしい愛撫だったが、同時に小さな獣が慰撫を求めるような甘えも混じっている。 当然悪戯の主はひとりしかいない。びくりと跳ねた肢体をゆっくりと伸ばすと、ミレイユは勿体をつけて眼を開けた。 まっすぐに覗き込んでくる、大きな瞳がなによりもミレイユの心の琴線に触れる。 ゆっくりと浮かべた笑みに、じいっと見入る様子は、まさに微笑ましいとしか言いようのない無邪気さだ。だが、ミレイユは、もちろんそれだけですますつもりはない。 「悪戯する子には、オシオキが必要ね」 告げる言葉を相手が飲み込む隙も与えずに、警戒を見せない痩せた腕を掴んで、それでも乱暴にならないように自らの腕の中に抱き寄せた。 細い体躯が、豊かな胸の下で息衝くように震える。されるまま抗わずにおとなしく組み敷かれた霧香は、見降ろしてくるミレイユの瞳の青にただ子供らしい一途さで見惚れていた。 言葉もなく、ぴたりとあった視線が嬉しくて、ミレイユの白い貌には艶やかな微笑が咲いている。 霧香の細い指先は、求めるようにミレイユの豊かな黄金の髪に埋められていた。絡め取るしぐさの幼さが、密着した肌のまとう淫らな微熱との落差を感じさせて、それにも煽られる。 ふふふ、とひそやかな笑み声を漏らしながら、そっとやわらかい口唇で、かわいらしい口唇を啄ばんだ。 「ん、………ミレイユ―――――」 ちゅ、と小さな音とともにそっけなく離された接吻を追うのは、淡く儚げな呟きで象られた自分の名前。胸を高鳴らせる睦言に、ミレイユの体温はひといきに凶暴さを帯びた。 「霧香……―――――」 ボリュームという点では、自分に比べて全てにおいて未成熟な身体だ。それに似合いの小さな口唇を、おのれのそれで再び塞ぐ。触れ合う直前にそっと垣間見た霧香の面では、伏せる睫の影に大きな瞳を隠してしまっていた。 薄く開かれた口唇を舌先で割れば、細い手が背中を彷徨い、おずおずと縋る。 細い指先の震えが、もっと深いキスを求めているようで、ミレイユは滑らかな歯列をさらにくぐりぬけて、暖かい口腔を求めた。 ゆっくりと絡みあう舌の濡れた感触が、陶然とした感覚を呼び起こす。ためらいがちに応える薄い舌に愛しさが募るようで、しっとりと味わうように接吻に溺れる。 喉を鳴らす甘い吐息までも堪能しながら、掌で霧香の幼い額を撫で上げて、くせのない前髪を梳いた。 乾いた気候ゆえそれほど気にならないが、それでも熱帯の気温のなかで、霧香の肌は微かに汗ばんでいる。指先でさらさらと黒髪を手繰りながら、吸い付くような肌を探って愛撫していった。 ミレイユが、雛を抱きこむ親鳥のようなしぐさで腕の中にしまいこんだ肢体は、ミレイユの仕掛ける快楽に従順だ。そればかりではなく、口内の敏感な粘膜を、丁寧にたどられるひとつひとつの作為に忠実に反応して、ゆっくりと感覚を高めていくのがわかった。 濡れ音をたてて夢中で貪る戯れを離すと、霧香は喉を反らせてうまくつなげなかった呼吸に喘ぐ。 はふ、とついた吐息の切なささえ、ミレイユにとっては自分を悦ばせる媚態にも等しい。 「退屈してたの?」 淡く繰り返される霧香の呼吸は妨げないように、小さく啄ばむようなキスを小さな面にいくつも落としながら、ゆっくりと体勢を整えた。 華奢な躯を押し潰さないよう僅かに身を浮かせて、自由になった腕は確かめるような慎重さで、組み敷いた少女の肌を滑ってゆく。 霧香がまとうキャミソールワンピースは、前でボタンを留める仕組みで、やたら小さなそれがたくさん並んでいるのを手探りで外すのは結構な手間だ。 わりと短気な部類に入るミレイユには、もどかしいことこの上ないのだが、実は手間取ることで霧香の方が焦らされてくれるらしいので、わざとその作業をゆっくり愉しむことにしている。 少しずつ露わになる肌は、柔らかい体温とともに、甘い匂いを感じさせて、それだけでミレイユは陶然となる。 いっそうやさしい笑みを深めるミレイユの美貌を見上げる霧香の瞳も、ぬるく潤んで蜜のように熔けていた。 そっと差し出された細い手が、遠慮がちにだが、組み敷くミレイユの肌を探って返す。 「………そばにいたかったの」 言葉少なに、ぽつりぽつりと告げる囁きは、出会った頃からあまり変わらない。でも、ずいぶん思ったままを口にするようになった。ミレイユはそれが純粋に嬉しくて、小鳥がするような声で、笑い声をたてた。 「そんな広い部屋じゃないのに」 宥めるようで、からかうようで。本当はただ嬉しくて。 霧香へのご褒美に、そして抑えきれない衝動に素直に従って、細く頼りない肢体をぎゅっと抱き締めた。 はだけられた胸元の肌が密着して、もう、ふたりとも相手を欲する微熱を孕んだなまめかしい気配を伝えあう。 「霧香………」 肌をたどりあがって、自分の豊かな胸に漂い寄る霧香の掌を好きにさせながら、ミレイユは、自ら暴いた幼い肌に、ちゅ、と小さな接吻を落とした。 「…っ、あ」 続いて、ちり、と刺すようにきつく植えつけられる痛みは、愛しい肌に飾り付ける朱の証だ。 仰向けに横たえればほとんど影をなくす、やはり幼い乳房の間にそれを残して、こらえきれない戦慄きを返す肌の感触を堪能した。 かわいい…、声にはならない呟きとともに小さく出した舌先で辺りをたどると、細身はだんだん背を反らして、愛撫をもたらすミレイユに縋りつくばかりになる。 たどたどしい手つきで、大好きなのだと以前告白したことがあるミレイユの胸元を探っていた指も、今は震えを刻みながら相手の細い肩から背へと彷徨っていた。 ホットパンツに水着の上だけを部屋着代わりにまとったミレイユの背中は、漂う細い指先の感触を直に受け止めて、さらさらと受け流す。 滑らかな素肌の上を迷う霧香の手はやがて、白い背中にくっきりと浮かんだ肩甲骨にたどりつき、その形を包むように落ちついた。 「っ、…ミレイユ」 声にならない声で、震える名前を綴る。応えるように、濡れた舌先が霧香の胸部の稜線を滑って、頂きにたどりつくと、細身が息を呑んで竦むのがわかった。 「ぁ、……」 ほとんどが忙しない吐息に紛れて、あえかな嬌声がどこか痛々しい印象だ。 だけど。ミレイユは、抱き込んだ華奢な体躯に着々と募る体温を、逃さずに捉えていた。 浅く吐く息を繰り返して、仕掛けられた官能をやり過ごす霧香をじっと眼下に収めながら、やさしく愛撫を強めてゆく。 「霧香…、もっとしてもいい?」 囁く甘さが、いっそう少女を融かすのを承知で、尋ねながら舌を絡めた桜色の突起をきゅう、と吸い上げた。 「!、ぁあ…―――ん、…して、ミレイユ…」 痺れるほどに巧みな刺激に、霧香の瞳は零れそうなほど涙に濡れている。 翻弄されて乱れ始めた様子を、少し宥めてやろうと、ミレイユは身を伸ばして、愛しい頬にたわいない接吻をひとつ落とす。陶酔に朦朧としてきた漆黒の瞳が、変わらずじいっとミレイユの青い瞳を覗きこみ、拙い手で白い顔(かんばせ)を捉えて、もっとたくさんのキスをねだった。 舌先から絡める淫らなキスに、瞬く間にふたりして溺れながらも、ミレイユのしなやかな腕は、投げ出された細身の下肢をたどり降りて、ドレスの長い裾を器用にからげ上げてゆく。するすると露わになるすべすべの細い脚を、ぬかりなく掌で撫で上げて、口付けに混ぜあう口唇に触れる甘い声も存分に貪った。 溢れる唾液を吸いあげ、室内に響く微かな濡れ音を愉しんで、腕の中で快楽に熟れてゆく霧香の匂いに、ミレイユも溺れている。 太腿にいたるまで華奢で細い肢体を指先でひとつひとつたどり、確かめながら形造るように掌で覆う。そんな儀式めいた愛撫の間に、ミレイユは膝で霧香の下肢を割っていった。 「ひゃ、ぁ!」 濡れ始めている薄い布越しに、いきなり下肢の狭間を探られて、霧香は子犬が鳴くような悲鳴をあげる。 「あぁ……ん…ミレイユ……」 仰け反る喉の細さが、昼陽に照らし出されて、眩しいほどだ。 喘ぐように揺れるそこに、ミレイユはふっくらとした口唇を、やんわり押し当てて、色っぽく囁いた。 「もっと近くにいらっしゃい、霧香…」 脅かさないように慎重な指先で、相手の最も敏感な肉芽を苛みながら、ミレイユの瞳にもなまめかしい情欲の気配が浮いている。腕の中で慈しみながら、遮るもののない嵐の中で、全てを暴いて、自分のものにしてしまいたい。そんな欲は、今まで知らなかったのに。 愛しい細身を覆う着衣をようやく全てはだけ、獲物のように眼下にさらされた姿態を存分に眺める。細い華奢な下肢に最後に残された布片に遠慮のない指をかけながら、おのれの首にすがり付いてくる頼りない腕にそっと頬を擦り付けて、その先をねだる。 応える繊細な指先が、本当は器用なはずなのに、震えて不器用な戸惑いを見せながら、ミレイユの背中の紐をほどいた。たちまち露わになった豊かな白い乳房に、霧香はまるで顔を埋めるかのように口付け、先ほど自分に施されたのと同じ位置に、血の色の飾りを刻み付ける。 贈られた愛撫になまめかしい吐息を零し、ミレイユは褒めるように霧香の黒髪をやさしく梳き上げた。それから自らの手で一糸纏わぬ素肌に暴いた痩躯を、そっと抱き込みながら、寝台に押し倒し直して、甘く囁く。 「もっと、もっと近くに…ね?」 誘惑には、少し余裕のない懇願も混じって、ミレイユの想いの深さが滲み出ていた。 うっとりとそれを受け取りながら、霧香はひどく嬉しそうに肯いて見せる。 「ええ、もっと……ずっと、そばにいて、ミレイユ」 長い間霧香の中で形成すことなく、告げることができなかったその言葉を、今はなんのためらいもなく囁いて。 細い手が掻き寄せたミレイユの美しい面に、いくつものかわいらしいキスを散らして返した。 疼くようにもっと激しい愛撫を待つ四肢を、ゆっくりとミレイユに絡みつかせるしぐさが、いっそう互いの呼吸を乱してゆく。 もう隔てるものなどなにもなく、ただ望むまま触れ合うことのできる口唇を重ねて、ふたりは濃厚な情事の波に、身を委ねていった。 END |